『36万リットルのオーバーフロー』
会社を辞めプール監視員のバイトをしながらイラストレーターを目指す主人公・福呂。仲のいい10年監視員の先輩・永野、プロ競泳を目指す女子体育大生・さくら、就活前のギャル女子大生・高橋などが働いている。監視員でありながら泳ぎが下手な福呂は、永野に小言を言われつつもさくらにアドバイスをもらうなど、単調だが平和な日々。そんな中、元プロ志望の男性客・新谷が来るようになり皆の日常に変化が訪れる。「自分の人生は進んでいるのか、止まっているのか…」いつも取り繕って生きてきた福呂にも大きな出来事が訪れる。
『繰り返す女』
生命保険会社の事務として働く野田貴子には、人の持ち物を衝動的に盗む癖がある。人付き合いが少なく、職場でも孤立しがちな日々を過ごしていたある日、苦手な同僚・木村燈の手鏡を盗んだ瞬間を本人に目撃されてしまう。しかし木村は、問いただすこともせずに、静かにその場を立ち去った。思いがけない反応に戸惑った野田は、次第に木村の存在を強く意識するようになる。盗むことでしか誰かと繋がれなかった女と、全てを捨てて身軽になりたい女。孤独を抱えた二人の、不器用で歪な交流が生まれる。
『うねうねとまっすぐ』
田舎に住む高校生まるのお弁当はいつもホットケーキ。家に帰ってもまたホットケーキを食べる日常は天然パーマの髪の毛みたいにすんなり行かない。ある日、都会から直毛男子の素直が転校してきて、さらに自分と同じバイト先で働き始める。自転車を漕ぎながらの二人きりの帰り道。交わらない存在だと思っていた圧倒的存在感を放つ素直は、何かを内に秘めている様子だった。その日、帰宅すると家の様子がやけに明るく、いつもあるはずのホットケーキがない。さらに、珍しく一緒に食卓につく父から家を出た母の再婚を告げられるが……。
『巡り巡る果て』
関東近郊にある昔ながらのカメラ店。店主の杉原文雄と従業員の深谷稔は街のカメラ店として、現像やプリントを中心に証明写真の撮影、時代に合わせた中古カメラのネット販売などを行っている。二人は店主と従業員という関係以上に、実の親子のような関係を築き互いに支え合ってきた。近頃、文雄に認知症の症状が現れはじめるが稔はこれまで通り文雄と店を守り続けようとしている。そんなある日、文雄の息子であり写真家を目指して出て行った杉原貴一が東京から帰ってくる。帰ってくるはずもなかった貴一の存在が稔の居場所を少しずつおびやかしていくことに…。