初恋、めぐる―
『Love Letter』『スワロウテイル』『花とアリス』岩井俊二監督が描く、もうひとつの“ラストレター”
姉、チィナンが死んだ。彼女宛に届いた同窓会に出かけ、そのことを伝えようとした妹、チィファだったが、姉に間違えられた上、スピーチまでするはめに。
同窓会には、チィファが憧れていたイン・チャンも来ていた。途中で帰ったチィファをチャンが追いかけ、呼びとめる。
チャンがチィナンに恋していたことを知っていたチィファは姉のふりを続けた。連絡先を交換するが、チャンが送ったメッセージのスマホ通知を、チィファの夫ウェンタオが目撃。
激昂し、チィファのスマホは破壊されてしまう。仕方なくチィファは、チャンに住所を明かさないまま、一方通行の手紙を送ることに。かくして始まった「文通」は、思いもかけない出来事を巻き起こす……。
2020年1月に公開された岩井俊二監督の『ラストレター』。「手紙」をモチーフに、懐かしさと新しさを同時に兼ね備えた芳醇な映画世界は多くの人の心を潤した。あの物語が、今度は中国を舞台に繰り広げられる。
『チィファの手紙』は、『ラヴソング』で知られる名匠ピーター・チャン監督をプロデュースに迎え、岩井監督が自らメガホンをとった一作。だが、セルフリメイクという表現は当たらない。撮影は、日本の『ラストレター』に先駆けて行われ、中国での公開も2018年。つまり、『チィファ』のほうが「お姉さん」なのである。
夏休みの設定が冬休みになり、中国の風土と中国人キャストの演技が積み重なることで、同じはずの物語がまったく異なる趣に。糸電話の導入という細部から、最終盤の夜間長回し撮影によるドラマティックなエモーション創出に至るまで、大小さまざまな差異が、豊かに響きあう。 『ラストレター』が軽やかでさわやかな後口だったとすれば、『チィファの手紙』はしっとりしみじみとした余韻。脚本と小説を「母親」と捉えるなら、中国、日本の映画二篇はまるで、対照的な性格の「双子の姉妹」のよう。 この秋、わたしたちは、「もうひとつの感動」に出逢うことになる。