「恥の多い生涯を送ってきました」
医療革命により、〝死〟を克服した昭和111年の東京――
人々は体内の〝ナノマシン〟とそれらを〝ネットワーク〟により管理する〝S.H.E.L.L.〟体制により、病にかからず、傷の手当を必要とせず、120歳の寿命を保証する、無病長寿を約束された。しかし、その究極的な社会システムは、国家に様々な歪を産み出す。埋まることのない経済格差、死ねないことによる退廃的倫理観、重度の環境汚染、そして、S.H.E.L.L.ネットワークから外れ異形化する〝ヒューマン・ロスト現象〟……。
日本は、文明の再生と崩壊の二つの可能性の間で大きく揺れ動いていた。
大気汚染の広がる環状16号線外(アウトサイド)――イチロク。薬物に溺れ怠惰な暮らしをおくる〝大庭葉藏〟は、ある日、暴走集団と行動する謎の男〝堀木正雄〟とともに特権階級の住まう環状7号線内(インサイド)への突貫に参加し、激しい闘争に巻き込まれる。そこでヒューマン・ロストした異形体――〝ロスト体〟に遭遇した葉藏は、対ロスト体機関〝ヒラメ〟に属する不思議な力をもった少女〝柊美子〟に命を救われ、自分もまた人とは違う力を持つことを知る――
堕落と死。生と希望。男は運命に翻弄され、胸を引き裂き、
叫ぶ。
怒り。悲しみ。憐れみ――絶望に呑みこまれ、血の涙とともに大庭葉藏は〝鬼〟と化す。
貴方は、人間合格か、人間失格か――